青空文庫感想
簪を挿した蛇と同類の主張が展開されている。仏教宇宙世界の話は同一の体験と考えるべきか、何度も体験したことなので一種の編集を著者の脳内でされていると考えるべきか。 途中からはスタインが実際に体験した西遊記世界のお話になるので趣きが異なってくる…
寺田寅彦先生にみんなが勧められていた線香花火の研究を、夏の風物詩的に試みた著者の実験ノート。最終的に夏休みの宿題にするには難しいことをしてしまっている。火花の出現が火球の温度と密接に関係していて、放射温度計の測定によれば最初の860℃では火花…
イギリス留学時代に、フランス人の夫人が振る舞ってくれたサラダの味が忘れられない。夫人が行っていた秘密の味付けの正体がわからずに、訪ねまくったあげく海外留学をした次女のおかげで、ついに長年の謎が解け、昔味わったサラダが味わえるようになったと…
寿司なのにカブを使って米を使っていない寿司の話。麹は使っているか。北陸特有の料理についての知識が得られる。現代の食文化が画一的なものになってしまっていることが伺える。 また、寺田寅彦氏もかぶらずしが好きだったらしい。だから何?とも感じつつ、…
著者がハマったホッケの貝鍋について、短くもお腹の空く描写がされている。最初はあまり味がしないホッケだが、不思議と無限に食べられるらしい。 貝鍋から出てくるカルシウム成分が影響している可能性を著者は考え、知人に調べてもらって水に溶ける成分はあ…
割る者と悪者を掛けている?終戦直後にそんなダジャレを飛ばす余裕があったのか、どうか。終戦後の混乱状態を描いた貴重なエッセイ。日本人の足を引っ張るのは、かつての敵国だったアメリカ人ではなくて、自暴自棄になった日本人だという指摘が痛い。 略奪す…
中谷宇吉郎氏がおこなった雪の研究を一冊にまとめたもの。 日本人と雪の関わりについて述べた章もあり、雪国の人が大きなハンディを背負ってきたことがわかる。南国は南国で台風があるけれど。 近代的な除雪の研究でいろいろな成果が上がっていることが紹介…
子供時代に食べたおこげおにぎりを著者が回想する。本当に美味しそうで読んでいるだけでお腹が空いてくる。 今の子供には理解できないかもしれないと諦める前に、一度食べさせてみればいいのにと思ってしまった。 まぁ、多人数用に鍋でお米を炊く機会はなか…
アメリカ合衆国シカゴ近郊の冬は、緯度が同じ北海道中央部と同じくらい寒い。ただし、雪はあまり降らず、自動車事故対策のために除雪活動も熱心に行われている(1955年に書かれたエッセイで) クリスマスは家族で過ごし、お盆は若者が外に出てみんなで新年を…
オランダ人のディーケ博士が日本の夏の夜に浴衣で出歩くのが気持ちいいと思っていた日本の夏の夜は、熱帯夜が物凄く増えた現代の日本の夏の夜とは別物だったんだろう……。どうにも取り戻し難いものがある。過去の訪日客の手記を読んで日本に憧れてくる人には…
アメリカ合衆国シカゴの住宅事情を伝えるエッセイ。アメリカ式生活の肝は機械が設置された地下室にあると分析していて、地下室のない日本の住宅が電化製品だけ真似をしてもアメリカ式生活は再現できないとしている。現代でもこの地下室は有用に違いないし、…
1945年、北海道の冬。 よりにもよって大不作で春を迎えるまでの食料すら心配だった時代、著者の家族に娯楽を提供してくれたコナン・ドイル「ロスト・ワールド」の回顧。原著を片手に子供に日本語で語って聞かせるあたり、海外留学経験のある大学教授らしい行…
著者が入手した江戸時代の本をきっかけに、日本人に残っている非西洋科学的な姿勢「語呂の論理」について、論じた一片。陽イオン・陰イオンの議論について現代でも疑似科学界隈では元気な論理展開に思えて笑ってしまった(が笑えない)。 区別をするための記…
イギリス留学時に著者が経験したイギリス上流社会の様子。スイスのツーン湖ほとりにあるホテルで優雅な日々を過ごしている。うらやましい経験だが、イギリス人は付き合いにくい感じも……著者にはいろいろ良くしてくれているので複雑な心境を抱いてしまう。ア…
名声は身を助ける。だが、通じる相手と通じない相手で対応が激しく異なっているところが名声のあつかいの難しさである。もっとも著者には名声を利用するつもりはなくて――肩書は多少利用したが――偶然、泊めてくれた相手が著者を知っていただけである。 地方の…
日本海にも真夏はあるんだよな。どうしても冬のイメージが強い日本海の夏の魅力を、著者の少年時代の経験を元に描いた文章。サザエ(栄螺)やタコ(章魚)の漢字表記が読み慣れず、生態などの描写から読みが分かった。 子供心にみた海の美しさと恐ろしさが巧…
研究者によるギネス的な冬ごもりの話。半分以上、冒険家になってしまっている感じの研究者だが……アメリカの人は軍人でもあった。昭和12年のソ連の実験がアメリカの実験よりも詳細を公表している点が興味深い。公表して障りのない科学的なデータに関しては…
岩波文庫にくっついている創刊者の理念を謳った文章が単体となって、青空文庫に収録されていた。底本が、中島敦の山月記であることが最高にロックである。岩波文庫が生まれた当時の出版業界が抱えていた問題が伝わってくる。 今でもディアゴスティーニの耳に…
寺田寅彦氏が「線香の火を消してはいけない」と卒業する学生に語り聞かせていたことの述懐。研究に関係のない仕事についても、いちど研究に足を踏み入れたのならば、少しでも研究を続けるべきとのこと。働きすぎ時代にはつらい言葉であるが、当時も大変だっ…
ただひたすら雪の結晶を切り続けていれば、そのうち切れる。わけがわからない……この現象に起こったことを深く追求してほしかった。そうじゃないと学生が変わったときに引き継ぎができない。科学にとって再現性は大事。 雪の研究に関するさまざまな話を「聞く…
科学者中谷宇吉郎の意外な少年時代が語られている。仏教のお祈りを聞きながら宇宙創生をイメージしていたとは、ある意味で出来すぎである。そういえばSF作家の谷甲州氏も石川県在住だった。 中谷宇吉郎氏が暮らしていた町は大聖寺藩のお膝元であったらしく、…
寺田寅彦氏が別名で書いた短文「茶碗の湯」について、解説を行っている短文。 日常的な「茶碗の湯」は対流現象など地球規模の現象を説明する例として使うことができる。科学者の鋭い観察眼を感じさせるのは、複数の現象を取り上げているからだ。風に吹かれた…
十勝の山小屋で著者がやっていた雪の研究生活が描かれるようで、山小屋のオーナーO老人のすごさを語る話だった。O老人が何ヶ月も雪山を歩き回っている間に、ひとりで山小屋を守っているお婆さんもすごいと思う。二人が出会った経緯も気にならないでもないが…
冬に雪が降る由布院で、雪の研究家である中谷宇吉郎氏の伯父が、ロハスな生活を送っていた。雪歌ユフの聖地にせざるをえない! 交通の便は恐ろしく悪いのに、悠々自適で素敵な生活に見えてしまう。著者の従兄弟もこの地の環境に見事に適応している。いつから…
戦争直後で食料自給率の低さが深刻な農業のために雪を消す方法が研究されているとの話。雪を人工的に消して早めに作付けを行えば収穫を劇的に増やせるらしい。 雪に畝を作って土を撒く方法が効果的だが、最後に理論的には日射の角度の問題ではなかったと追記…
アメリカ本土に行く際、飛行機がアラスカに寄ったので、盛大な寄り道をしたお話。ずいぶんと融通が効くみたいで、現代のシャーペン一つを買うためにも領収書がいる研究者には読ませられない……。著者が訪れた当時はフェアバンクスがアラスカの州都で、アンカ…
芥川龍之介が全集の八巻で取り上げていた無名作家とは、著者の弟のことだった。驚くような偶然から、弟の思い出が語られる。中学生にして芥川龍之介に褒められる文章を書いていたとは大したもので、それで終わらず長じては良い論文もたくさん書いたみたい(…
「霜柱の研究」について 中谷宇吉郎 女学生たちのアマチュア的な研究が、プロの研究者を感心させた話。快刀乱麻の言葉がふさわしいほどサクサク研究が進展していった様子は間接的に読んでも快感である。だが、零下10℃の高原で1時間毎に記録などの苦労も予想…
著者の知り合いである牧野伯が東條首相に読ませようとしていた島津斉彬公の本を読んだ感想。タイトルを「島津斉彬公を読んで」にしてほしかったところだ。今更すぎるが。 東條首相に読ませて技術の大切さを学ばせようとしても、当時は逆方向から首相への影響…
著者にとっての実験室の思い出を語る文章を想像していたら、実験室に宿る記憶というオカルティックな話題になってビックリした。蟻の集団がひとつの意思をもって動くかのように、実験室がひとつの目的に向かって最適化されると解釈すればオカルトではないの…