2017-10-01から1ヶ月間の記事一覧

川 新美南吉

子供たちのちょっとした冒険行動から大変なことが起こる。少なくとも当事者の子供たちにとっては大事件の発生である。ちょっとした勇気が出せれば疑問が氷解したのに、いつまでもくよくよしていた事が、とても子供らしい。主人公、久助の繊細な内面が伝わっ…

鍛冶屋の子 新美南吉

なんとも暗い話を書いたものだ。こんな話も描くのだと思ったが、代表作である「ごんぎつね」も十分に暗かった。体に悪い酒をやめたら調子が悪くなってしまった親父。人体のバランスとは本当に奇妙なものだ――実は他にも原因があるのかもしれないが、リアルに…

熊 新美南吉

鉄の檻に囚われた悲しい熊を歌った詩。アイヌが出てくるところからヒグマであるらしい。仲間の声が聞こえた気がして吠えても返ってくるのは、こだまのみ。聞こえた声もこだまだったのかもしれないと思う。 青空文庫 新美南吉 熊

一銭銅貨 新美南吉

スズメが見つけた宝物。一銭銅貨のゆくえが気になる童話。ふきのとうさん、イケメン。水車小屋の軒に住んでいるというスズメの生態への観察眼が流石に感じられた。著者の活動範囲から考えて、瓦の釉薬を細かくするための石臼を動かす水車だったのかな。本当…

工場で虎狩り

虎の子が複数工場(倉庫群?)に迷い込んでいるのを目撃、捕獲のために相談をするが、工場の社長はなぜか反対してくる。一部の理解ある社員がいて一緒に虎の子を捕まえようと奮闘するのであった。インドで町まで入ってくる虎がいるというニュースをみた影響…

タケノコ 新美南吉

すべてがカタカナで書かれたタケノコ視点の童話(ひらがな版もあった)。句読点とスペースの使い分けがどのような基準で行われているのか、気になった。設定については母親がタケになっているが、タケノコは地下茎段階からタケノコで、上に伸び始めるよりも…

国際学術会議への旅 仁科芳雄

ジャンボジェットのない時代に日本からヨーロッパまで行くのは大変だった。ともかく着陸が多くて検査などで1時間は待たされる。当時の旅行事情が分かる。19時間の待機があったインドで精力的に活動していて、著者の高いバイタリティを感じた。日本の代表を…

ユネスコと科学 仁科芳雄

戦争直後の「平和国家」への希望が感じられる文章だった。70年も経つと執着と冷笑ばかりが残っている気がしてしまって辛い。この頃の明るさを取り戻す方法はないものか。明るさの理由の一つは「無知」だろうから、難しいよなぁ。まぁ、著者は仕事柄核兵器…

国民の人格向上と科学技術 仁科芳雄

終戦から1年2ヶ月しても虚脱状態の人が多く、犯罪発生率は高い。戦後の復興を内側から眺めれば、そんな指摘も出て来るのだった。やはり朝鮮戦争特需は大きかったのかなぁ。 著者は衣食足りて礼節を知る状態にするため、科学が力を発揮して衣食を充足させる助…

[青空文庫感想]原子力の管理 仁科芳雄 1946年、長崎・広島の衝撃覚めやらぬ時代に書かれた核兵器の今後を考えた文章。核攻撃を受けた広島・長崎を実際にみた物理学者による言葉なので重みがある。5〜10年は核兵器がアメリカの独占になるので、その間の時…

蒸発皿 寺田寅彦

思い出語りが集まった一遍。ふとすれ違った事情のよくわからない人は強烈な印象を残す。ちゃんと無事に生きているか心配になってしまうものだ。実際は「普通の人」が亡くなっていたと後で知ったりする。 毎日シラミを噛み潰していたホームレスの話は、なにか…

日本再建と科学 仁科芳雄

敗戦直後、茫然自失の状況にあった日本において、物理学者の著者が描いた復興への道筋。科学が先か、科学研究を可能とするための経済復活が先か、多少前後関係が怪しくなっている部分があった。まぁ、現状でも可能な研究については動いておこうと勧めている…

淡窓先生の教育 中谷宇吉郎

門弟4000人を教えたという江戸時代の広瀬淡窓について、短く触れている。広瀬の方にルビがついて淡窓にはついていない処理に驚いた。淡窓は読めて当然なほどの有名人であったらしいが、私は知らない。読みは「たんそう」で良いんだよな?「あわまど」は…

千里眼その他 中谷宇吉郎

かつて日本社会の流行病となった千里眼騒動を思い返す。水素水などのことを考えれば、日本人があまり進歩していないことがわかる。流石に全く同じものでは騙されない気がするけれど、仕掛けるほうが巧妙化して当時の日本人みたいに「騙されたい気持ち」が高…

地球の円い話 中谷宇吉郎

地球の丸さを例にして有効数字の話をしている。しかし、扱い方がちょっと変に感じられる。著者の言う6桁は小数点以下ではなくて、頭の数字(重力加速度でいえば9)かららしい。3桁わかれば十分なデータが得られるとの3桁も怪しいものであるが、コンピュ…

『日本石器時代提要』のこと 中谷宇吉郎

考古学者であった弟の業績を著者が回想する。語学にも驚くべき才能をもっていたらしく、兄弟揃って優秀である。そんな兄弟が嵐の夜には祖母に抱きついて、おとぎ話を聞いていたと他のエッセイに書かれて知っていることが可笑しい。 功績が認められた弟は短命…