雪 中谷宇吉郎

 中谷宇吉郎氏がおこなった雪の研究を一冊にまとめたもの。
 日本人と雪の関わりについて述べた章もあり、雪国の人が大きなハンディを背負ってきたことがわかる。南国は南国で台風があるけれど。


 近代的な除雪の研究でいろいろな成果が上がっていることが紹介されている。長年雪と生きてきた知恵があっても、対策はやり尽くされていないのだな。屋根の角度変更は長期的なコストが判断できなかっただけかもしれないが、運河に放り込み続ける方法は条件が整わなかった影響も大きそうだ。江戸時代はやっぱりブレーキだったのかな。藩の間で技術が広がるのにも時間が掛かりそうだし。


 雪の研究では天然物の撮影と人工雪の作成が、両輪となって進んでいったことが分かる。
 撮影の初年度から人工雪も挑戦はしていたらしい。とりあえずは霜からはじめて、観察をつづけることで雪作りへのヒントを見つける発想は、現代の研究者にとっても参考になりそうだ。雪の重さを知るために、雪を溶かして水滴の体積を求めることも興味深かった。
 簡単に説明していても、いろいろと試行錯誤で生まれた手法なんだろうな。


「雪は空からの手紙」の名言があったけれど、大気が複雑で高度ごとに雪が異なる影響を受ける日本の空では、往々にして手紙の差出人は一人ではないことも本書を読むと理解できた。


青空文庫
中谷宇吉郎 雪


雪 (岩波文庫)
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