簪を挿した蛇 中谷宇吉郎

 科学者中谷宇吉郎の意外な少年時代が語られている。仏教のお祈りを聞きながら宇宙創生をイメージしていたとは、ある意味で出来すぎである。そういえばSF作家の谷甲州氏も石川県在住だった。
 中谷宇吉郎氏が暮らしていた町は大聖寺藩のお膝元であったらしく、その江戸屋敷が本家の前田家と一緒に東京大学の敷地になっていることは何かの円だったのかもしれない。科学からは程遠い生活を送っていたと言いながらも、教師を通じて射した科学の光が少年に感銘を与えている点は見逃せない。完全に宗教的な世界とはやっぱり違っていたのだろう。
 現代は逆に科学が氾濫した状態において、宗教の光がわずかでも精神 に重大な影響をあたえる可能性を考えなければならないのではないかと思った。著者とは少々違う考えになってしまうけれど。


青空文庫
中谷宇吉郎 簪を挿した蛇