蒸発皿 寺田寅彦

 思い出語りが集まった一遍。ふとすれ違った事情のよくわからない人は強烈な印象を残す。ちゃんと無事に生きているか心配になってしまうものだ。実際は「普通の人」が亡くなっていたと後で知ったりする。
 毎日シラミを噛み潰していたホームレスの話は、なにか別世界の出来事のようで、著者にとっては空間的につながっているし、読者にとっても時間的につながっている。もっとも敗戦を経験した直後はまったく他人事ではなかっただろうなぁ。


青空文庫
寺田寅彦 蒸発皿