佐藤大輔名文集

「人間は必要とあらば北極圏の荒海でも赤道直下の密林でも戦場にする。ソコトラ程度で疑問を抱くのはまさに想像力の欠如だ。度し難いほどの」――RSBC死戦の太平洋1巻61P 谷甲州氏の作品を読んでいると更に実感できること。ほとんど宇宙空間に近い高山…

「ナチスの豚野郎」少年は言った。 「なんだって?」パウルはたずねた。 「ナチスの豚野郎」少年は繰り返した。 「なんだって?」パウルも同じ質問を再び発した。同じ言葉をくりかえす彼等の問答は続いたが、少年の声は徐々に小さくなった。やがてかれは泣き…

だれもが、はじまりが終わったことを知った。地獄の釜は煮え立っている。その薄汚れた蓋には何本もの血塗られた手がのばされていた。戦争の夏がはじまった。――RSBC7巻219P 文庫版の終了時の結び。ビジュアル的に思い描ける像が強烈で、手の汚れや釜…

なんともすばらしい人生設計だった。加藤はその場に座り込んだ。妙に楽しい気分になってきた。このままおかしくなってしまえればずいぶん幸せだろうなとおもった。――RSBC7巻214P 壊れかけた人間の前向きな単語の使い方は酷いものである。しかし、そ…

やがて、かれの視線は、自分がこれまで指揮していた一式改中戦車に釘付けとなった。砲塔が半壊し、車体前部が敵戦車の転輪と側面へ食い込んだその姿は、凶暴な小動物の死体のようだった。みずからに数倍する敵の喉笛に噛みついたまま絶命した哺乳類の祖先。―…

加藤は砲尾に砲手の首、その一部が引っかかっているのを見つけた。だめじゃないか、加藤はぼんやりと思った。こんなところに首をおいてちゃいけない。――RSBC7巻142P 首を置くっていい方がまるで亡霊デュラハンみたいだ……前後の繋がりから、あまりに…

感情ではなく、あくまでも戦術論からみずからの行動を決定するところがまことにこの男らしかった。絶望という感情は、アルベルト・クリスティアン・フォン・ベルンハルトが持つ意識の地平、その外に存在していた。――RSBC7巻138P 全てを機械的に判断で…

その行動を後知恵で批判することはたやすい。あるいはそうすべきなのかもしれない。しかし、ただ否定だけを目的にあげつらうことだけはゆるされない。――RSBC7巻106P 安全な場所から優越感を剥き出しにした批判だけを繰り返す人間に痛烈な言葉。私に…

かれは前方をみつめた。敵兵であふれかえったそこは、まるで蜜蜂の巣だった。そしてかれは、そこに飛びこむ雀蜂。いつかは、死を賭して向かってくる蜜蜂にやられてしまう雀蜂。――RSBC7巻90P 非常に情景がイメージしやすく相対的な強さを性格に表現し…

中隊を一瞬にして壊滅させた先鉾隊よりもさらに強力な編成だった。青鼻をたらした子供を連れた初恋の相手を街でみかける方がまだましだと加藤はおもった。距離は約二〇〇〇メートル。 ふとっちょの加藤中尉も人並みに恋をしていた時代があったらしい。じゃな…

であるならば、なおさらのことだ。かれは、日本人たちに逃げるつもりなど毛頭ないことを理解していなかった。――RSBC6巻202P ソコトラ沖夜戦時の情景描写より。撤退援護するつもりだったのに、日本人は狂った犬のように敵に噛みついて離れることをし…

日本人に匹敵するほどの独善的性質をもつかれらは、その黄色人種たちが、極端から極端にはしる習慣をもっていることをさほど理解していなかった。――RSBC6巻169P 日本人の性質について述べたもので最も印象に残っている文章。確かに明治維新での見事…

暴虐非道なるG国の野望をくだけ、諸君、このような時だからこそ僕はおもうのだ。忠告愛君の念にもえる日本男児におそれるものはない、と。 普通の名文とはかなり異なるが窮地に追い詰められた人間が全てを単純化してしまいたがる心理が表れているような気が…

能力も、才能もある。おそらく、勇気すらもっているかもしれない。しかし、ひとつひとつの行動が他者に怒りをおぼえさせるほど無思慮な人間とは、どんな組織にもかならず一人はいるものなのだった。 耳が痛い、というか前の三つも持っていないだろうから、ど…

恐怖を覚える事も出来ぬほど無能な人間は全ての行動を勇気で表現しようとする傾向にある――レッドサンブラッククロス4巻218P 外伝のやつ。言った本人が鉄砲玉として生きるしか道のなさそうな人物であった事が皮肉で、言葉の印象をより鮮明にしている。し…