雪の降らない国の住民には馴染みのない牡丹雪と粉雪の話。もっとも、この文章が書かれた当時には土佐でも10cmになる牡丹雪が降ることがあったというから、驚きである。牡丹雪は気温の高いときに、粉雪は低いときに降ると覚えておけば、ひとつの知識になりそうではあるが、現実がさらに複雑なことはいうまでもない。
夜の間に気圧差で家に侵入してくる「粉雪」やスキー場の「粉雪」も別の存在としてあって、自然はともかく一筋縄ではいかない。
雪が牡丹雪から粉雪に変わるときの描写が簡潔で美しかった(下記)。
北海道の真冬の降雪はそれと反対に、極めて引き締まった感じの日が多い。風の無い夕方から小形の牡丹雪が降り始める日など、遠くの山も人家も薄鼠色に消えて行くのを背景に、真っ白く音も無く積もって行く。そのうちに一陣の風が来ると急に雪の形が変わって、今度は極めて細かい個々の結晶が、硼酸の結晶をまくように降って来る。何だか耳を澄ますと空でさらさらという音を立てているような感じである。