真田一族の末裔、真田幸豊の早熟な英明ぶりを描いた短編。
 なんとも古い文体だが、リズムがあり、淀むことなく読み進められる。文章とお話を二重に理解する必要を満たして、内容がわかったときが面白い。


「上」の話は生類憐れみの令との関係が気になった。鳥にまで同情の心を広げて自分が同じ立場になったら?と考えさせるまではいい話だけれど、領民が趣味に走らず仕事に励むようにとの思いは腹黒いとまでは言わなくてもシビアである。
 饗応役を仰せつかって出世のチャンスと調子に乗るよりも恐縮する某も悪いやつではない。しかし、悪いやつだったら……一生鳥籠から出られなかったかもしれない。
 あるいは鳥籠が平気な変態だったら――それは流石に考えにくいなぁ。


「下」は幸豊が恩田杢に藩政改革を任せるまでの流れが描かれる。完全には理解できなかった。
 身分制社会は嫉妬が渦巻いていて大変だ。いい方向にまとめられたのは、流石に真田の家風と感じた。若くして人心の機微を理解した藩主の将来が末恐ろしい。


青空文庫
泉鏡太郎 十萬石