漫画と科学 寺田寅彦

 漫画の特徴を拡大して描く手法は、科学の複雑なものから単純な法則性を導き出す手法に、相通じるものを持っている。そんな興味深い主張が展開されているが、著者のいう漫画は鳥獣戯画北斎漫画のことを指していて、現代一般に言われる漫画はやっぱり評価されていない様子だった。新聞に載る風刺の漫画については作者によるとのこと。
 落語や川柳をふくめて文化の高等・下等ではなく、作者の育ちが問題だと指摘するのは、それはそれで危険球である。現代では顰蹙を買いそうな発言がやすやすとなされるのも時代によるものであろう。
 漫画や科学の真を見抜く目、科学であっても直感的で理屈は後付な場合さえあるやり方は「名探偵」の推理にも近いものがあると思った。推理漫画がブレイクした背景には、そういう共通項の関係もあったのかもしれない。小説だって読者に提示する情報を取捨選択しているな。


青空文庫
寺田寅彦 漫画と科学