ガムの味

「ん」
「ありがと」
 さし出されたガムを受け取り、銀色のつつみをかさかさ言わせて開く。
 口に放り込むとブラックミント味だった。肩を並べて歩く。
「人の感情はガムの味みたいなものだな」
 また変なことを話し出す。おもしろいので黙って聞いているが。
「ガムの味にはいろいろあるが、必ずしもその果汁が使われているわけではない。合成された香料だけで、現実に存在するものの味を冠されたものは多い――ご丁寧なことにイメージにそぐう着色料まで使って。ミント、レモン、グレープ、アップル……何故こんな真似をするのかといえば人が普段感じる味には模範があって、全てをそこに当てはめていくからだ。誰も合成香料の名前で味を呼んだりはしない。
 感情もそれと同じであやふやなものに無理やり味をつけて呼んでいる気がする。そうしなければ味わえないから――すると感情をあらわす語彙は味覚のようなものなのかもしれない。せめて細分して少しでも違和感をなくそうとする。
 でもまぁ、ガムに美味しいと拙いがあるように、感情にも快と不快があることは間違いないか」
「明快な論理なのに何だかもやもやする……」
 彼女は口角を浮かせて再びガムをさし出した。
「では、もう一枚?」
「僕の味覚を破壊する気?」

Q.E.D.証明終了16巻 サクラ サクラ/死者の涙 感想


……オナニーだな