世界戦争史は大学図書館で通して読まなかったことを後悔している本で、出先の図書館などでたまに見かけるとパラパラとつまみ食いをする。10巻がアメリカ南北戦争のことを扱っていたので、戦況図と総評部分だけを読んだ。
著者の伊藤政之助氏は北軍も南軍も全力を至近にある相手の首都に投入すべしと主張しているのだが、現実的な手段とは思えない。「49の戦況図」をみると、一軍の兵力は12万が限度である。当時のアメリカにおいて、これを上回る大軍を指揮運用することは難しかったのだろう(早い時期に10万以上の指揮をやってのけたマクレランの手腕が際だつ)。
無理に指揮できない大軍を狭い範囲につぎ込んでも、味方同士が邪魔になって自滅する恐れすらある。おそらく著者の念頭にあったのは普仏戦争だろう。そりゃプロイセン並の組織が最初からあればワシントンやリッチモンドの陥落もできるだろうけどさ……。
人物評価では総司令官の交代が激しかったことを挙げて、戦争がぐだぐだになった原因としている。北軍の司令官は特に交代が激しい。南軍の場合は総司令官でありながら銃火に身を晒す人間がいた影響も無視できない。
また「49の戦況図」からはフッカーやボーレガードのように地位が下がっても働き続ける将がいることに気付かされる。フッドのマイナス面が目立つが「ピーターの法則が働くなら一階級下がればいいじゃない?」の運用がなされているようにも見える。
グラントとリーの評価について、伊藤政之助氏は武田信玄と上杉謙信にたとえている。ただし、グラントの器は信玄に及ばないとのこと。
伊藤政之助氏の著作時点より後の人物になってしまうが、犠牲を厭わず戦果をあげ中央とのパイプが太い点で、個人的にはジューコフとグラントに共通点を感じる。
そして、フッドが北軍の将軍だったらグラントのように出来ていたのではないかとついつい考えてしまうのだった。指導力には格段の差があるのだろうけど、リーがグラントよりマクレランを評価する背景には、フッドの存在が絡んでいる気がする。
あと、リーは上杉謙信より徳川家康に似ていると思った。野戦で陣地に立てこもって守りを固められると、非常に厄介な点が。